大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所岡山支部 平成8年(う)52号 判決 1996年12月16日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人谷口茂高作成の控訴趣意書及び同補充書に記載されたとおりであり、これに対する答弁は、検察官松田達生作成の答弁書に記載されたとおりであるから、これらを引用する。

所論は、要するに、原判決は、被告人が法定の除外事由がないのに、京都府、兵庫県及び岡山県の各知事並びに京都市長の許可を受けないで、京都府内及び兵庫県内の三業者から産業廃棄物である「おから」の委託処理を受け、処理料金を徴して「おから」を収集し、岡山県内の被告人の経営する工場まで運搬した上、同工場において熱処理して乾燥させ、もって産業廃棄物の収集、運搬及び処分を業として行ったと認定して、被告人を有罪としたが、被告人は、「おから」を必要経費にも満たない費用で、その処理の委託を受け、飼料及び肥料の製造の目的で、収集、運搬し、被告人の経営する工場において、熱処理して乾燥させ(以下「本件処理行為」という。)、飼料及び肥料を製造したものであって、(1)「おから」は、食品の固有名称であり、豆腐製造業者が大豆を原料として豆腐を製造した後の残存物であるが、食用或いは飼料及び肥料等として広く利用されている社会的に有益、有用な資源であり、廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(以下「施行令」という。)二条四号の不要物ではないから、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」又は「同法」という。)二条四項に定める産業廃棄物に該当せず、(2)仮に「おから」が産業廃棄物に該当するとしても、食用或いは飼料及び肥料等として大半が再生利用されているので、被告人は、同法一四条一項及び四項の各ただし書にいう「専ら再生利用の目的となる産業廃棄物を収集若しくは運搬又は処分する者」に該当するので、無許可産業廃棄物処理業の罪の法定の除外事由があり、(3)仮にそうでなくとも、被告人は、植物性残さである「おから」を飼料及び肥料として製造する目的で、豆腐製造業者から対価を受けず、必要経費にも満たない金額で、収集、運搬、処分の委託を受け、飼料及び肥料の製造を業として行ったもので、岡山県知事が同法施行規則(厚生省令)九条二号及び一〇条の三第二号により同法施行細則において指定した者、すなわち、「再生利用されることが確実であると認めた産業廃棄物のみの収集若しくは運搬又は処分を業として行う者として指定したもの」に該当し、結局、同法一四条一項及び四項の各ただし書にいう「その他厚生省令で定める者」に該当するので、同じく法定の除外事由があり、(4)被告人は、法令による国民の責務と信じ、多額の資金を投資して肥料等の製造工場を建設の上、飼料及び肥料の製造には県知事の許可はいらないと教えられて、本件処理行為を行ったものであるから、被告人には無許可産業廃棄物処理業の罪の犯意ないし違法性の認識がなく、また、可罰的違法性もなく、(5)再生資源の利用の促進に関する法律は、国民に対しても、再生資源の有効な利用の促進を責務として規定し、また、廃棄物処理法は、再生品の使用等により廃棄物の再生利用を図ること等により廃棄物の適正な処理に関し国及び地方公共団体の施策に協力することを国民の責務として規定しているところ、「おから」を資源として再生利用することは、右の各法令による国民の責務であるから、被告人の本件処理行為は法令又は正当な業務による行為であり、したがって、被告人の本件処理行為は無許可産業廃棄物処理業の罪に該当せず、また、その罪の違法性が阻却されるので、被告人は無罪であるから、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認、ひいては法令適用の誤りがある、というのである。

一  所論(1)の「おから」が不要物ではなく、産業廃棄物に当たらないとの主張について

1  廃棄物処理法二条一項において、廃棄物とは、「ごみ、粗大ごみ、燃えがら、汚でい、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であって、固形状又は液状のものをいう。」と定義され、さらに、同条四項において、産業廃棄物とは、「事業活動に伴って生じた廃棄物のうち、燃えがら、汚でい、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物をいう。」と定義され、右の政令で定める産業廃棄物として、同法施行令二条一号ないし一三号には一三種類の産業廃棄物が定められており、同右四号に「食料品製造業、医薬品製造業又は香料製造業において原料として使用した動物又は植物に係る固形状の不要物」が掲げられている。

そこで、右の産業廃棄物としての不要物というのは、同法が廃棄物の排出を規制し、その適正な処理等を目的とするものであることからすると、排出段階の物を捉えていうものであって、事業活動によって排出された物で、事業者が不要として処分する物をいうものと解すべきであり、その物の性状、排出の状況、取扱形態及び取引的価値の有無等から排出業者が社会的に有用物として取り扱わず、有償で売却できる有価物ではないとして、対価を受けないで処分する物をいうと解するのが相当である。

2  本件の「おから」(肥料取締法等の関係法令上、「豆腐かす」といわれているもの・以下一般的には「豆腐かす」ともいう。)についてみると、関係各証拠によれば、「豆腐かす」は、大豆を原料として豆腐を製造する際に残存物として排出される固形状の物質であり、豆腐製造業者によって毎日大量に排出されているが、水分の含有量が多く、非常に腐敗しやすく、外気温度によっては二日位で腐臭を発するため、早急に処理しなければならず、「おから」として一部が食用に供される外、従来家畜の飼料或いは肥料(堆肥)として利用されることが多かったものの、最近では飼料及び肥料としての有効性に問題があり、小さい豆腐製造業者の中には、個人的に知っている牧畜業者に無償で引き渡す外に、可燃ごみとして一般廃棄物と同様の焼却処分により処理している者もあり、また、特に大量の豆腐を製造する業者は、その処理に苦慮し、食用として販売する数パーセントの外は、有償で売却できるような状況にはないため、無償で牧畜業者に引き渡し或いは処理料金を支払ってその処理を廃棄物処理業者に委託していることが認められ、このような豆腐かすの性状、排出状況、豆腐製造業者が豆腐かすを経済的取引価値のない不要なものとして処分している状況からすると、豆腐製造業者によって排出された豆腐かすは、不要物であって、同法施行令二条四号に定める「食料品製造業において原料として使用した植物に係る固形状の不要物」として産業廃棄物に当たるものというべきである。

所論は、「おから」が社会において資源として有効に利用されているから、不要物ではないというが、これは、不要物の再利用の段階のことであって、事業者からこれを取得した者が資源として再利用するからといって、排出の段階で不要物である産業廃棄物ではないといえないことは、後に産業廃棄物の再利用を問題にすることからも明らかである。

二  所論(2)の「おから」が専ら再生利用の目的となる産業廃棄物に当たるとの主張について

1  廃棄物処理法一四条一項及び四項本文は、知事の許可を受けないで、産業廃棄物の収集又は運搬、処分を業として行うことを禁止しているが、右各項のただし書によると、専ら再生利用の目的となる産業廃棄物のみの収集又は運搬、処分を業として行う者については、この限りでないとして、禁止を除外している。

そして、昭和五六年一月二七日最高裁判所第二小法廷決定は、右にいう「専ら再生利用の目的となる産業廃棄物」とは、その物の性質及び技術水準等に照らし、再生利用されるのが通常である産業廃棄物をいうものと解するのが相当であるとしており、右の解釈は、自動車の廃タイヤに関する事件において示された解釈であるが、本件の豆腐かす(おから)に関しても、「再生利用されるのが通常である」という点が判断の基準になるものと解される。

そこで、右の再生利用されることが通常であるとは、当該産業廃棄物について、排出、収集、保管、管理ないし加工、利用の過程が技術的及び経済的に有益な取引過程として社会において形成普及していることが必要であり、これは排出者から利用者に至る社会の取引の実状を前提にし、社会通念に従って判断すべきである。そして、右判断に当たっては、厚生省環境衛生局長通知「廃棄物の処理及び清掃に関する法律の施行について」が、古紙、くず鉄(古銅を含む。)、あきびん類、古繊維を専ら再生利用の目的となる産業廃棄物として挙げていることが一応参考となる。

2  本件の対象である豆腐かす(おから)は、前記のとおり、豆腐製造業から大量に生じ、食用に供される数パーセントを除き、産業廃棄物として排出されているのであるが、関係各証拠によれば、まず、排出したままの状態で牧牛等の飼料として利用する方法は、肉質に好ましくないなどの理由からその需要自体が激減しており、また、飼料として加工するには、技術的及び経済的に研究開発が不足しており、飼料業界に流通するほどには取引過程が未だ形成普及していないこと、現に被告人は廃油を燃焼させて収集した「おから」を乾燥処理していたものであるが、右の乾燥処理した「おから」はその品質からして飼料としては処分することはできなかったこと、次に、豆腐かすが排出したままの状態で堆肥として利用されることはあるが、その開発も未だ一般的であるとはいえず、また、肥料取締法上、豆腐かすの乾燥肥料として規定され、実際にもこれを乾燥処理するなどした上で土壌改良剤又は肥料製造の原料として利用している業者もあるが、乾燥させて肥料として使用する場合、発酵により植物を枯死させることがあるので、併せて発酵処理をしなければならないが、水分が多量に含まれていることもあって、技術的及び経済的に大量の豆腐かすを処理するには至っていないこと、現に被告人が乾燥処理した「おから」は、乾燥処理機械の性能がよくなく、従業員の技術も未熟であったため、その品質に問題があり、加えて、発酵処理もされておらず、肥料取締法に基づく普通肥料の公定規格に従った成分量は不明であって、配合肥料の原料としては利用されないものであり、販売ルートも確立されてなかったため、被告人は、乾燥「おから」が工場内に堆積するまま、その処分に窮し、肥料製造業者に極一部を売却しただけで、その余は、自ら運搬して持ち込むことを条件に、特定の肥料製造販売業者に無償で引き取ってもらっていたことがそれぞれ認められる。

したがって、右の豆腐かすの性質、その排出者から利用者に至る社会の取引の実状を前提に判断すると、豆腐かすは、飼料或いは肥料又はこれらの原料として、その排出、収集、保管、管理ないし加工、利用の過程が技術的及び経済的に有益な取引過程として社会において形成普及しているということはできず、専ら再生利用の目的となる産業廃棄物に当たるとはいえない。

なお、廃棄物関係の雑誌の発行等を業とする会社の編集記者である原審証人渋谷和義の供述中には、廃棄物処理業者の中では、「おから」を燃却処分することは少なく、相当部分が肥料の原料或いは家畜の飼料として利用され、食品、建築資材等に加工する研究がされていて、少なくとも五〇パーセント以上が再利用されているという趣旨の供述があるが、これは西日本において「おから」を利用している業者を調査した結果からの推論に過ぎず、「おから」の年間排出量や全体の利用状況を前提にしたものではなく、肥料の原料としても、「おから」だけでなく、食品残さの一部として「おから」も利用しているというもので、その指摘する廃棄物処理業者は知事の許可を受けている者のようであり、大量の豆腐かすの処理が技術的及び経済的に有益なものとして普及しているというものではなく、右供述部分は前記の判断を左右するものではない。

三  所論(3)の厚生省令で定める知事が指定した者に当たるとの主張について

1  廃棄物処理法一四条一項及び四項の各ただし書によると、知事の許可を受けない産業廃棄物の収集又は運搬、処分を業とすることの禁止の除外として「その他厚生省令で定める者」と規定し、同法施行規則九条二号及び一〇条の三第二号は、「再生利用されることが確実であると都道府県知事(同法八条一項により保健所を設置する市又は特別区の市長又は区長)が認めた産業廃棄物のみの収集又は運搬、処分を業として行う者であって都道府県知事の指定を受けたもの」と規定している。

そこで、被告人の原判示の本件処理行為のうち、本件「おから」の収集地は京都市、京都府及び兵庫県、運搬(積卸し)地は京都市、京都府、兵庫県、岡山県、処分地は岡山県である。

右のうち、京都市では、同法施行規則九条二号及び一〇条の三第二号による定めがない。

京都府廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行細則一条には、「知事が予め告示した産業廃棄物のみの収集、運搬又は処分を業とする者は、同法施行規則第九条第二号又は第一〇条の三第二号の規定により知事が指定を受けた者とする。」と規定しているが、右の知事の告示はなく、右の指定を受けようとする者は、同細則二条により再生利用個別指定業の申請をして知事の指定を受けなければならない。しかし、被告人は右の個別指定を受けた者ではない。

兵庫県同法施行細則一一条には、「知事が別に定める産業廃棄物を再生利用する目的で、当該産業廃棄物を排出する事業者から原則として無償で引き取り、それのみの収集又は運搬を業として行う者は、省令第九条第二号に規定する知事の指定を受けた者とする。」と規定し、同一六条には、「知事が別に定める産業廃棄物を再生活用する目的で、当該産業廃棄物を排出する事業者から原則として無償で引き取り、それのみの処分を業として行う者は、省令第一〇条の三第二号に規定する知事の指定を受けた者とする。」と規定しているが、兵庫県知事告示は、豆腐かす(おから)を右の再生利用産業廃棄物と定めていない。したがって、豆腐かすについて右の指定を受けようとする者は、同細則一二条により再生輸送(再生活用)個別指定の申請をして知事の指定を受けなければならない。しかし、被告人は右の個別指定を受けた者ではない。

岡山県同法施行細則一二条一項は、「省令第九条第二号又は第一〇条の三第二号の規定により知事が指定する者とは、次の各号に掲げる産業廃棄物を当該各号に掲げる目的で、当該産業廃棄物を排出する事業者から対価を受けないで収集若しくは運搬又は処分を業として行うものとする。」と規定し、同項八号に、「動植物性残さ 飼肥料の製造又は飼肥料としての利用」を規定している。右は岡山県が再生利用に係る産業廃棄物を特定した上で、当該産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分を業とする者を一般的に指定したもので、対価を受けないで同項各号に該当する産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分を業として行う者はこれに該当し、二項の個別指定と異なり、知事に対する指定の申請をして指定を受ける必要はないものと解される。

したがって、原判決が単に被告人は岡山県知事の指定を受けていないから、同法一四条一項及び四項の各ただし書の「その他厚生省令で定める者」に該当しないと解釈した点は誤りである。

すなわち、被告人は、植物性残さである「おから」を乾燥処理して肥料或いはその原料を製造する目的でこれを排出する豆腐製造業者から収集、運搬し、処分したものであるから、原判示の岡山県英田郡《番地略》所在の甲野畜産工場での運搬及び処分に関する限り、岡山県同法施行細則一二条一項八号の規定する産業廃棄物である動植物性残さを飼肥料の製造又は飼肥料としての利用目的で運搬及び処分することを業としたものに当たることになる。

2  しかし、同条一項により岡山県知事が指定したものというには、更に、被告人が産業廃棄物の排出事業者から「対価を受けないで」処理行為を行ったことが要件である。そして、右の「対価を受けない」という要件は、同法施行規則九条二号及び一〇条の三第二号の「再生利用されることが確実である」と知事が認めることを担保する要件であると解されるので、右の「対価を受けない」とは、無償で引き取る場合及び排出事業者から産業廃棄物を運び出すための費用の一部であることが明らかな料金のみを受け取る場合であるときをいうものと解され、所論のいうような収集、運搬のための自動車購入費、処分工場の建築設備費、従業員の給料などに相当する金員を料金として排出業者から受ける場合まで含むものではない。

関係各証拠によれば、被告人は、本件当時、「おから」の収集、運搬及び処分に従事する者三名を雇っていたが、原判示の排出業者三社から「おから」の処理委託を受け、その処理料金として、株式会社乙山からは「おから」一キロ当たり六円、株式会社丙川からは一キロ当たり七円、丁原工業株式会社からは月額二八万七一〇〇円(消費税込みで二九万五七一三円)を受け取っており、原判示の収集運搬期間約七〇日の間に、右の三社から、収集数量約五二二トン、処理料金合計三五三万八六五六円を受け取ったものであって、なお、証拠によると、被告人は、右三社の外、株式会社戊田からも「おから」の処理委託を受けていたのであるが、司法巡査山本和司作成の平成五年一一月二八日付け捜査報告書によると、平成四年一〇月から平成五年一〇月までに、被告人が右の四社から受け取った処理料金の合計は四一七九万一八二一円で、その間の従業員等の給料、自動車の燃料費及び有料道路料金の合計は二五二九万二六二二円であり、これを差引計算すると一六四九万九一九九円であり、被告人が受け取った料金が収集、運搬及び処分の対価であることは明らかである。

したがって、被告人が「対価を受けないで」本件「おから」の収集、運搬及び処分を業として行っていたものとは到底いえないから、被告人は、岡山県同法施行細則により知事が指定した者に該当しない。

そこで、被告人が同法一四条一項及び四項の各ただし書にいう「その他厚生省令で定める者」には該当しないとした原判決の判断は、結論において正当である。

四  所論(4)の無許可産業廃棄物処理業の罪の犯意、違法性の認識、可罰的違法性の不存在の主張について

関係各証拠によれば、被告人は、高校卒業後、父が大阪府交野市内で「甲野農場」の名で経営する養豚業を手伝い、昭和五四年ころに父が死亡した後も、右事業を継承していたが、牛肉の自由化等により採算が合わなくなってきたため、乾燥機を利用して、豆腐かすやパン粉等を乾燥させ、豚の飼料を生成したが、養豚自体の公害問題もあり、平成三年夏ころ、養豚業を廃業した後は、その経験を生かして、甲田産業の名称で、従業員四名を使い、「おから」やビールかす等を購入した上、これを収集した廃油を用いて熱処理し、飼料を生成する事業を営むようになり、同年九月二四日には、大阪府知事から、業種は収集・運搬業(保管を除く)及び中間処理業(油水分離、乾燥)、取り扱う産業廃棄物の種類は、廃油及び植物性残さ、中間処理施設所在地は交野市《番地略》として、産業廃棄物処理業の許可を受けたこと、被告人は、平成四年八月中旬ころまでに、原判示の株式会社乙山側に、右の産業廃棄物処理業許可証の写しを示したうえ、同会社との間で、口頭で、「おから」についての産業廃棄物処理委託契約を締結し、原判示の株式会社丙川との間では、平成三年一二月初めころ、同じく丁原工業株式会社との間では、平成四年一月中旬ころまでに、被告人の知人のAが代理して同種の契約を締結し、その際、右の産業廃棄物処理業許可証の写しを示しており、右株式会社丙川との間では、被告人の従業員Bがあらためて産業廃棄物処理契約書を作成しているが、その際も、右の許可証の写しを相手に交付していること、被告人は、乾燥機の故障などで、交野市での「おから」の乾燥処理が追いつかないため、原判示の「甲野工場」を建設し、平成五年二月「おから」の乾燥処理を始めたが、悪臭を発することから、近隣住民の苦情の声が起こり、岡山県勝英環境保健所及び岡山県環境保健部廃棄物対策室が関与するようになり、同年三月二四日には、右の「おから」の乾燥処理が無許可産業廃棄物処理業に該当するので、県知事の許可が必要である旨の文書による通知を受け、同年六月には、勝英環境保健所職員らの立入調査を受け、また、岡山県庁に出頭を求められて、同旨の説明を受けたことが認められる。

したがって、右の事実経過からして、被告人は、原判示の収集、運搬及び処分の始期である同年八月二一日の時点においては、右の本件処理行為が、知事の許可を受けなければ、無許可の産業廃棄物処理業に当たることを認識していたものと認められ、無許可産業廃棄物処理業の罪の犯意及び違法性の認識に欠けるところはない。被告人の司法警察員に対する各供述調書中及び原審公判供述には、右認定に反する部分があるが、信用できない。また、被告人に資源の再生利用の目的があったとしても、本件犯罪の性質、違反行為の経緯、態様等に鑑み可罰的違法性の有無は問題にならない。

五  所論(5)の法令又は正当業務行為に該当するとの主張について

所論は、再生資源の利用の促進に関する法律及び廃棄物処理法が、再生資源の利用の促進に努め、廃棄物の再生利用を図ることなどを消費者ないし国民の責務として規定していることを指摘するが、廃棄物処理法は、右のような国民の責務を前提として、産業廃棄物の無許可処理事業を行うことを禁止した上、その罰則規定を置いているのであり、被告人の本件処理行為が右規定に違反することは前記のとおりであり、被告人の本件処理行為は、法令による行為又は正当業務行為に該当しないことは明らかである。所論は独自の見解であるというほかない。

六  したがって、以上のとおりいずれの所論も採用できないから、論旨は理由がない。

よって、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし、当審における訴訟費用の負担につき刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福嶋 登 裁判官 内藤紘二 裁判官 山下 寛)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例